
エピローグ
深夜のコインランドリー。洗濯機が回る単調な音を聞きながら、俺はアルミホイルを剥がしたこめかみを指で撫でた。
結局のところ俺は何と闘ったのだろう。
「多肉植物」を叩き壊したとき、ちょっと英雄になった気がしていた。
だが、翌朝のニュースでは、俺の勤めていた会社は「業績不振による組織再編」と報じられただけだった。
山田は相変わらず、別の怪しい健康セミナーにハマり、空っぽな多幸感の中で笑っている。
以前の俺なら、
山田を「真実を知らない哀れな犠牲者」などと蔑んでいただろう。
自分が見た「侵略される地球」こそが真実だと叫んだかもしれない。
でも考えてみれば、
奴らにとって、あの会社は自分が「生きのびるための場所」だった。
清掃員には、駅前のあれは「掃除すべきゴミ箱」だった。
俺にだけ、それが「宇宙人の吸血機」に見えた。
どれかが嘘でどれかが本当かなんてわからない。
スマホにリサからメッセージが届く。画面には、公園の滑り台の下に隠された「何か」のピンボケ写真。
俺は鞄から、ひしゃげたアルミホイルの帽子を取り出した。
これを被れば、世界は再び戦場に見える。脱げば、退屈で平和な日常に見える。
リサに返事をする。
「リサ… 俺にはどれかが嘘で、どれかが本当なんて決められない」
「ちょっと何たそがれてんのよ!哲学者。キモいわよ」
「 …」
「洞察とかいいから。それより見てよこれ、公園の滑り台。ゴーグル越しに見たら、これ完全に『宇宙人の産卵床』じゃない」
「いや、これどう見ても、ただの『誰かが食べ残したソフトクリーム』が巨大化したものだろ?」
「はぁ? あんたのレンズ、バグってんじゃないの? どこをどう見たら産卵床がソフトクリームになるわけ?」
「いや、リサの方こそ、なんでもかんでも侵略兵器に見すぎなんだよ。あいつらにとっては『産卵床』で、子供たちにとっては『滑り台』で、俺にとっては『ソフトクリーム』」
「まったく。人にそれがどう見えようがあたしには関係ないの。どっちもありよ。
でも、やつらはそれを許してくれない。自分たちに都合よいように書き換えて見せようとしてくるの。そのことが問題。
そんなことがまかり通ったら、いつかあんたも自分が見たものを二度と口にだせなくなるわよ。
そしたらだれも何も考えなくなる。人間じゃなくなるの。それでいいの?」
「わかってるよ! でもさ、もし俺がこの『ソフトクリーム』を叩き壊したら、俺は『巨大なスイーツを破壊した狂ったパティシエ』ってことになるのかのな?」
「いいじゃない、かっこいいわよ『狂ったパティシエ』。私は『遊具を撤去した過激な公務員』。ほら、行くわよ!」
「結局、俺たちのやってることって、端から見たらただの不審者だよな」
「何言ってるの。救世主よ。さあ、夜明けまでにあのバニラ味の産卵床を片付けるわよ!」
「バニラ味… 認めてるじゃないか。よし行くか」