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朝焼け

轟音と共に「核」が沈黙した。
サーバー室を埋め尽くしていた多肉植物のような触手は、急速に乾燥し、ただの古いLANケーブルや埃の塊へと姿を変えていく。ゴーグル越しに見ていたあの地獄のような光景が、魔法が解けたように「無機質な機械室」へと戻っていった。 佐藤はバールを杖代わりに、ふらふらとオフィスフロアへ戻った。 そこには、床にへたり込んだり、デスクに突っ伏したりしている同僚たちの姿があった。

「……あれ、僕、何してたんだっけ。仕事中、急に意識が飛んじゃって」

山田がぼんやりと頭を振りながら立ち上がった。その瞳からは、あの不気味な「空っぽの青」が消え、いつもの冴えない、だが人間らしい濁りが戻っていた。 佐藤は黙って、自分のこめかみに貼っていたアルミホイルを剥がした。

「佐藤さん? そのゴーグル、何ですか。……あと、なんでバール持ってるんですか?」

「ああ、これか。……ちょっとした、システムメンテナンスだよ」

佐藤はそれだけ言うと、バールを鞄に押し込み、足早にオフィスを去った。

ビルの外に出ると、冷たい朝の空気が頬を刺した。 ロビーでは、リサが巨大なアルミホイルの山をゴミ袋に詰め込んでいた。彼女は佐藤の顔を見ると、短く「お疲れ」と言って、使い捨てカメラの最後の一枚を切った。

「世界は救われたのか?」

佐藤の問いに、リサは朝焼けに染まる街を指差した。

「一つの『給油所』が閉鎖されただけよ。でも、見て。あいつらの色が、少しだけ薄くなった」

空を見上げると、そこには美しい虹がかかっていた。 だが、今の佐藤にはわかる。あれは気象現象ではない。地球を覆う「認識の膜」の綻びだ。

駅へ向かう道すがら、佐藤は昨夜ボコボコに叩き壊したはずの自販機横のゴミ箱を通りかかった。 そこには、ピカピカの新しいゴミ箱が設置されていた。清掃員が丁寧に磨き上げ、その横にはまた、新しいQPのポスターが貼られている。

「……いたちごっこ、だな」

佐藤は苦笑いし、ポケットの中でスマートフォンが震えるのを感じた。 画面を見ると、削除したはずのQPアプリが、勝手にインストールを開始している。

『クォンタム・ピース:Ver 2.0へアップデート中。新しい「平和」をあなたに』

佐藤は迷わずスマホを歩道のアスファルトに叩きつけ、バールで粉々に砕いた。 通りかかる人々が、「なんて野蛮な男だ」という目で彼を見る。だが、その視線の「意味」さえ、今の佐藤にはどうでもよかった。

彼はリサからもらった、アルミホイル入りのボロボロの野球帽を深く被り直した。 世界の本当の姿が見えてしまった以上、もう「幸せな燃料」には戻れない。

「さあ、次はどこの『景色』を壊しに行くんだ?」

佐藤は、朝焼けの中に消えていくリサのボロ車の後を追って、力強く歩き出した。

(第一部・完)